2026年4月27日、文部科学省(以下「文科省」)は中央教育審議会の「教育・学習の質向上に向けた新たな評価の在り方ワーキンググループ」(以下「WG」)第10回会議で、認証評価制度の抜本的見直し案「『新たな評価』制度の在り方について(案)」を提示した。従来の大学全体の「適合/不適合」判定に加え、学部ごとに4段階(要改善・一つ星・二つ星・三つ星)で評価する仕組みを導入し、「要改善」学部が1つでもあれば大学全体を「不適合」とする内容である。

これは2004年度の認証評価制度導入から20年余を経て、評価の力点を「機関全体の形式的な質保証」から「学部単位の教育成果の実証」へ転換する動きである。本稿では制度案の要点、政策文脈における位置づけ、経営層が今着手すべき論点を整理する。

1. 制度案の要点:4段階評価と「要改善=不適合」のロジック

今回の案は「質保証の徹底」と「質向上の促進」の2軸で構成される。

大学全体の評価は3基準(①大学組織の社会的信頼、②全学的な内部質保証システムの手続・体制、③中長期計画等に基づく点検・評価による内部質保証の実効性)で「適合/不適合」を判定する。全体基準を満たさない場合は学部評価を実施しない。

学部ごとの評価は、4つの基本的な方針(人材像とDPの策定・公表、カリキュラム・教育環境体制、学修成果の把握と評価、不断の自己改善)のもと7基準・15評価項目で構成される「質保証の視点」と、教育成果の実績を見る「質向上の視点」の二面から行う。質保証の視点で1項目でも法令水準に達していない場合、当該学部は「要改善」となる。質向上の視点では、DP(卒業認定・学位授与の方針)に定める資質・能力を備えた学生を育成できているかを直接評価・間接評価・社会での活躍データ等を踏まえ総合判断し、一つ星(★)・二つ星(★★)・三つ星(★★★)に振り分ける。

最も経営にインパクトを与えるのが、「要改善」学部が1つでもあれば、大学全体の「内部質保証が図られていない」として大学全体の評価を「不適合」とするロジックである。文科省は「要改善」学部を持つ大学に対しペナルティを含む対応を検討し、改善の見通しがなければ法令上の厳しい措置を講じるとしている。評価サイクルは6年が前提で、評価結果はデータプラットフォーム上で一元公表され、学生・企業がソート・検索できる設計である。

2. 政策文脈の系譜:質保証強化と規模適正化の二重圧力

今回の見直し案を単独で読むと制度技術論に見えるが、直近の高等教育政策の文脈に置けば、規模適正化と質保証強化の「二重の選別」を構成する一手として位置づけられる。

  • 中教審答申「我が国の『知の総和』向上の未来像」(令和7年2月):大学進学者数62.7万人(2021年)→59.0万人(2035年)→46.0万人(2040年、約27%減)の急減を前提に、質保証と質向上の制度的見直しを要請
  • WG資料が示す現行制度の課題:①社会的機能の再確認の必要性、②評価者・被評価者双方の負担とインセンティブ不足、③内部質保証の意義が学内に浸透していない――の3点を改革の出発点に明記
  • 「機関別認証評価」と「分野別認証評価」の一元化:WG資料2は、現行で並立する両制度の重複解消と、国立大学法人評価における教育に関する現況分析との重複解消も論点としている

つまり、財政審が4月23日に示した「私立大学を2040年に217〜372校へ」という量の論理と、今回の質保証ロジックは、同じ淘汰圧の表裏をなす。量で絞り、質で篩い分ける設計が政府全体で収斂しつつあると見るべきである。

3. 実務への3つの影響:経営判断に直結する論点

① 1学部のリスクが大学全体に波及する構造

多学部を擁する総合大学ほど「要改善」が生じる確率は構造的に高い。1学部の15項目のうち1項目の不備が当該学部の「要改善」となり、直ちに大学全体の「不適合」に転化する。大学ブランド全体の毀損、補助金減額、受験生・保護者の選択行動への直撃が連鎖する。最も脆弱な学部の管理レベルが、大学全体の評価上限を規定する構造である。

② 学部間格差の可視化と募集力への影響

評価結果はプラットフォーム上で一元公表され、星の数が高校生・企業から直接参照される設計である。学部間の評価格差が可視化されることで、「一つ星」止まりの学部は定員充足をさらに困難にする悪循環に入りうる。「三つ星」獲得学部はインセンティブの対象となり、選別が募集力にフィードバックする。

③ DPの実質化と教育成果の根拠データ整備

質向上の視点は「教育活動を通じて教育成果を明確に挙げているか」を問う。DPが抽象的なままでは二つ星以上の獲得は困難である。授業試験・eポートフォリオ・ルーブリック等の直接評価、全国学生調査・卒業生調査等の間接評価、就職先調査・地域内進学率等の社会での活躍データを組織的に蓄積する仕組みが、評価対応上の必須インフラとなる。

4. 大学経営層が今すぐ着手すべき3つの準備

第一に、全学部の「質保証15項目」自己点検。WG資料1-2に示された7基準・15評価項目に照らし、各学部がどの項目で法令水準を満たしているかを棚卸しする。1項目でも欠ければ「要改善」となるため、最も脆弱な学部から優先着手すべきである。

第二に、教育成果の可視化基盤の構築。DPの具体化と、直接評価・間接評価・社会での活躍データの組織的収集体制を整える。アセスメント・ポリシーの実装と、IR組織による継続的データ収集が前提となる。

第三に、弱体学部の戦略的判断。定員未充足や教員確保に課題を抱える学部は「要改善」リスクが高い。改組・統合・募集停止を含む戦略的判断を、新制度施行前の時間的余裕のあるうちに行うことが合理的である。施行後では大学全体の評価毀損を回避しながらの改編が困難になる。

結び

新制度は、認証評価を「大学名」ではなく「学部の教育の質」で評価する時代への明確な転換である。問うべきは、自学の全学部が15項目を1つも落とさず通過できるか、そしてDPに基づく教育成果を根拠をもって示せるか――この2点に尽きる。施行時期は明示されていないが、評価基盤の構築には複数年単位の準備を要するため、今期から動く法人と動かない法人の差は3年後に決定的に表れる。

UB研究所は、内部質保証体制の設計、学部単位のアセスメント・ポリシー策定、DP・CPの再検証、学修成果可視化基盤の構築のいずれの局面においても、この政策環境を前提にした実務支援を提供しております。個別のご相談はお問い合わせフォームより承ります。

(参考資料)中央教育審議会大学分科会 質向上・質保証システム部会「教育・学習の質向上に向けた新たな評価の在り方ワーキンググループ」第10回 配付資料1-1「『新たな評価』制度の在り方について(案)」、同資料2「議論のまとめ(骨子)」(令和8年4月27日)、中央教育審議会答申「我が国の『知の総和』向上の未来像〜高等教育システムの再構築〜」(令和7年2月21日)