令和8年5月27日、文部科学省は令和9年度大学入学者選抜実施要項を発出した(8文科高第318号、高等教育局長通知)。総合型選抜・学校推薦型選抜の双方について、面接による評価を「必ず行う」ことを要項で明確化したことが最大の変更点である。
私立大学では、文科省「大学入学者選抜の実施状況」によれば入学者の過半数を総合型・推薦型が占める。面接の必須化は、書類審査・小論文中心で運用してきた大学にとって選考フローの根本的な見直しを迫る。令和9年度総合型選抜の出願受付開始は令和8年9月1日──体制整備に残された時間は3ヶ月を切っている。
1. 要項の要点:何が義務付けられたか
令和9年度実施要項(令和8年5月27日、8文科高第318号)の主要規定は以下の通りである。
総合型選抜(第3の1(2)②) 志望する学問分野に対する意欲や適性等に係る「面接(ディベート、集団討論、プレゼンテーション、口頭試問等を含む。オンラインによる実施を含む。)による評価を必ず行う」と明記された。
学校推薦型選抜(第3の1(3)①) 同様に面接による評価を必ず行うことが義務付けられた。ただし例外として、「高等学校との緊密な連携により、意欲や適性等を含め丁寧なマッチングが図られていると考えられる非公募型の学校推薦型選抜であって合格した際には入学することを入学志願者が確約して受験するもの」については、大学の実情に応じて面接の要否を判断できるとされた。
加えて、両選抜とも「学力の三要素」を評価するため、出願書類(調査書・推薦書等)のみに依存することなく、第6の1から4に掲げる評価方法(学力検査・大学入学共通テスト・小論文等・資格検定試験等)のうち少なくとも一つを活用することを義務付け、その旨を募集要項に明記することも求めている。
主要日程は次の通りである。総合型選抜は出願受付が令和8年9月1日以降、判定結果発表が令和8年11月1日以降。学校推薦型選抜は出願受付が令和8年11月1日以降、結果発表が令和8年12月1日以降。大学入学共通テストは令和9年1月16・17日(本試験)、一般選抜は令和9年2月1日〜3月25日である。
2. 政策文脈:多面的・総合的評価の「実質化」要請
面接必須化は突然の政策転換ではなく、中央教育審議会が2014年以来一貫して求めてきた「多面的・総合的評価の実質化」の到達点として位置づけられる。文科省が問題視してきたのは、AO・推薦入試において面接を形式的に課すだけ、あるいは省略して書類と点数のみで合否を決める大学が一定数存在してきた実態である。
背景には18歳人口の長期減少という構造がある。定員充足を優先するあまり、入学者選抜の実質的機能が後退した大学では、入学後の学力・適性とのミスマッチが顕在化している。今回の要項は、総合型・推薦型入試を「定員充足のツール」として運用してきた構造に制度的な歯止めをかける意図を持つ。
文科省が同時並行で進める認証評価制度の見直し(学部単位の4段階評価と全学「不適合」連動)や収容定員充足率基準の段階的引き上げと並べると、政策方向は一貫している──量と質の双方から、大学経営の実力を問う選別圧力の強化である。
3. 実務への3つの影響
① 面接体制の整備コストと教職員負荷
中規模私大(定員800〜1,500名程度)で総合型・推薦型の年間志願者が数千人規模に達する場合、全受験者への面接実施は面接官の調整・確保が即座に人的コスト問題となる。特に深刻なのは評価の標準化である。面接官が変わるたびに評価水準がばらつけば、入学者の質保証は形骸化する。評価シートの設計・評価者研修・複数評価者による信頼性の担保という一連の制度整備が、今年度中の実務課題となる。
② 非公募型推薦の例外規定をどう活用するか
附属・系列高校からの内部進学や指定校推薦は、合格確約型であれば面接省略を「大学の実情に応じて判断できる」例外に該当しうる。ただし適用条件として「高等学校との緊密な連携による丁寧なマッチング」が前提とされており、安易な例外認定はアフターケア(AC)調査や第三者評価での指摘リスクを孕む。各大学の推薦型選抜の類型(公募型・非公募型・確約型)を精査し、例外適用の適否を法令テキストに照らして一類型ずつ判断する必要がある。
③ 「令和8年8月末」を実質的な体制完成期限として逆算する
総合型選抜の出願受付が令和8年9月1日に始まる以上、評価基準・評価シート・面接方法・オンライン対応の可否・面接官研修の完了期限は実質的に令和8年8月末である。募集要項への面接実施方針の明記義務もあり、受験生・高校への周知は遅くとも令和8年8月中旬までに公開しなければならない。つまり制度設計から広報準備まで、残り約2ヶ月半で完了させるタスクである。
4. 経営層の3つの準備
準備1:入試類型の全棚卸しと「面接義務」マトリクスの作成 まず自大学の全入試選抜区分を「総合型・推薦型」×「公募型・非公募型・確約型」で整理し、面接が義務付けられる区分と例外が適用可能な区分を明確に仕分けする。この作業なしには体制整備の優先順位も議論できない。
準備2:面接評価規程の整備と評価者研修の実施 アドミッション・ポリシーと連動した評価項目の設計、評価シートの標準化、評価者選定基準、複数評価者によるキャリブレーション(評価基準の摺り合わせ研修)を令和8年8月末までに整える。他大学事例や外部専門家の知見を参照しながら、「形式的な面接実施」ではなく「評価として機能する面接」の仕組みを設計すべきである。
準備3:募集要項改訂と受験生・高校への早期周知 面接の実施形式(個人・集団・オンライン)、評価方法・評価項目の概要、オンライン対応可否は、令和9年度募集要項に明記する義務がある。情報公開の遅れは受験機会喪失やトラブルの原因になるだけでなく、高校との信頼関係を損ねる。広報スケジュールを入試体制整備と同時並行で前倒しすることが不可欠である。
結び
面接必須化は、入試選抜を「教育の入口設計」として真剣に捉え直すよう大学に求める制度改革である。経営判断として問われるのは、限られたリソースでどこまでの質保証を実現できるか、という問いだ。令和9年度入試への対応は、2030年代の募集力と教育品質を左右するインフラ整備と位置付けるべきである。
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参考資料
本レポートは2026年6月3日時点の公開情報に基づき作成しています。 株式会社UB研究所
