令和8年10月9日、文部科学省は「令和9年度からの私立大学医学部の収容定員の増加に係る学則変更認可申請一覧」を公表した。私立23校が申請し、入学定員の増加数は合計314人である(一覧の増減数からの当社集計)。参考資料は、令和9年度の医学部総定員を令和7年度の総定員数9,393人を上限とし、令和8年度末を期限とする臨時増員の枠組みを令和9年度末まで1年間延長すると記し、増員期間を「令和9年度限り」と明記した。

本稿は、前稿「令和10年度開設の認可申請9件」と同日に公表されたもう一つの認可申請一覧を扱う。医学部の臨時定員は、毎年度の学則変更認可で更新される定員である。昨年度分は10月16日の申請一覧公表から12日後の10月28日に、附帯事項を付した「学則変更予定一覧」が公表された。

1. 要点 〜23校・314人の内訳〜

増加数が最も多いのは岩手医科大学の35人(増加前95人、増加後130人)で、順天堂大学34人、自治医科大学23人、昭和医科大学23人が続く。増加後の入学定員が令和8年度と異なる大学は5校あり、順天堂大学は137人から139人、近畿大学は107人から110人に増え、藤田医科大学は122人から120人、関西医科大学は121人から116人、久留米大学は114人から113人に減る。

昨年度(令和8年度分)の申請は24校・328人であった(当社集計)。今年度は杏林大学が申請せず、増加数を減らした大学が3校、増やした大学が2校で、差引14人の減となる。国公私立81大学の合計は、令和8年度の定員9,377人に対し、増員前8,396人、増員数940人、令和9年度計画9,336人である。計画の合計は上限の9,393人を57人下回る。

増員の仕組みは、都道府県が都道府県計画等の医療に関する計画に基づき奨学金を設け、大学が地域医療を担う意思を持つ者を選抜する「地域枠」(令和8年度935人)と、各大学3人以内の「研究医枠」(同43人)の2つである。一覧の注記は、今回の申請を「経済財政運営と改革の基本方針2025」等に基づく令和14年度まで(令和9年度入学者の在学期間に相当)の期限を付した収容定員増と位置付ける。

2. 政策文脈 〜適正化から削減への転換〜

骨太方針2025(令和7年6月13日閣議決定)は「2027年度以降の医学部定員の適正化を進める」とし、文部科学大臣は令和8年6月11日、地域枠・研究医枠の枠組みを1年間暫定的に維持するための大学設置基準の改正を中央教育審議会に諮問した。今回の1年延長はこの流れの上にある。

次の段階は既に示されている。骨太方針2026(令和8年7月21日閣議決定)は「地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員の削減に取り組む」と記す。厚生労働省の医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会は、令和8年7月31日の第15回で、令和10年度の臨時定員を令和8年度の数から引き続き削減し、削減対象を医師多数県に限らず広げる方向の調整方法を案として示した。

3. 実務への影響 〜3つの論点〜

① 全学の定員管理

医学部の収容定員は、学校教育法施行令第23条の2第1項第4号の「文部科学大臣の定める分野」(医師、歯科医師、薬剤師、獣医師及び船舶職員の養成)に当たるため、増減とも届出ではなく認可の対象となる。認可の審査基準である告示第45号第1条第1項第3号は、申請に係る大学に置く学部ごとの収容定員充足率が1.15倍(収容定員4,000人以上の大学では入学定員の規模により1.10倍又は1.05倍)未満であることを求め、同項第4号は、同じく大学に置く学部ごとに充足率が0.7倍を上回ることを求め、申請に係る医学部に限らない。令和7年度分の定員増には告示附則で両号の適用を除外した例があるが、医学部の定員増の審査で、既設の他学部の定員管理も見られ得ると考えるのが妥当である。

実例は昨年度の一覧にある。令和7年10月28日公表の学則変更予定一覧では、掲載された24校のうち8校に、医学部以外の学部・学科の収容定員の未充足または超過の是正に努めることを求める遵守事項が計30件付され、16校は「特になし」であった。帝京大学には8件、日本大学には7件、久留米大学には5件が付いている。

② 期限付き定員の出口

今回の増員期間は「令和9年度限り」であり、令和10年度以降の臨時定員は削減の方向で調整方法が検討されている。臨時定員で確保してきた地域枠を恒久定員の内側に置き直すか、臨時定員の縮小を受け入れるかは、令和9年度の申請とは別に、都道府県との協議と国の調整方法の双方に委ねられる。検討会資料は、恒久定員内への地域枠設置について更なる推進が求められるとする。

③ 23区規制との同時進行

一覧では、順天堂大学、昭和医科大学、帝京大学、東京医科大学、東邦大学、日本大学、日本医科大学の7校(増加数計122人)に、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」に基づく特定地域内学部収容定員増抑制の除外規定の適用による特例との備考が付く。同法第13条は、東京都の特別区を区域とする特定地域内の学部収容定員の増加を禁じ、特定地域内学部収容定員の抑制等に関する命令第8条第2項第4号が、都道府県計画等に記載された地域枠の人数の範囲内で期間を付して医学部の定員を増やす場合を除外している。

同法附則第2条は、第13条の規定を令和10年3月31日限りで失効させる。令和9年度は、臨時定員の延長と23区規制の双方にとって、現行の条文上の最終年度に当たる。附則第5条第2項は政府に同日までの検討を求めており、延長の有無はこれからの判断である。

4. 実務上の対応 〜3つの準備〜

準備①:充足率の学部別点検 告示の判定単位は学部であり、基準日は開設年度の前年度5月1日である。医学部以外の全学部について、未充足と超過の双方を同じ基準日で確認する。

準備②:臨時定員ゼロの収支 令和10年度以降の臨時定員は削減の方向にある。臨時定員分の学生納付金と教員配置を切り分け、臨時定員がない場合の医学部収支を試算しておく。

準備③:都道府県計画との整合 地域枠の人数は都道府県計画等への記載が上限であり、23区の除外特例も同じ記載を根拠とする。令和9年度からの次期医師確保計画に向け、恒久定員内の地域枠を含む協議の記録を残す。

結び

問いは3つである。医学部以外の学部の充足率が、医学部の定員増の審査に耐える水準にあるか。臨時定員が削減された場合の医学部収支を、数字で持っているか。23区の除外特例と臨時定員の双方が節目を迎える令和10年度以降の定員を、都道府県とどの段階で協議するか。

申請一覧は結果ではない。昨年度は申請一覧から12日後に附帯事項付きの一覧が公表された。今年度も、昨年度の例に倣えば10月下旬、それ以前の4年度の例では11月中旬に、23校の帰趨が示される。


UB研究所は、収容定員・財務要件の設計、設置認可申請の書類作成支援、教員個人調書のチェックと予備判定、学生確保の見通しの調査設計をご提供しております。お気軽にご相談ください。


参考資料

本レポートは2026年10月23日時点の公開情報に基づき作成しています。 株式会社UB研究所