令和8年10月22日、財務省は財政制度等審議会財政制度分科会に資料「文教・科学技術」を提出し、その23ページで大学等成長分野転換支援基金の実績を検証した。令和5年度から7年度までの採択154件について、学部・学科定員は増19,794人、減13,584人で、差引6,210人の純増である。資料は「成長分野育成に向けた学部再編等と大学規模の適切なダウンサイジングが両立していない」と記し、計画段階だけでなく進捗や成果を確認しながら支援する仕組みが不可欠とした。

本稿は、基金の採択実績と、採択後の運用の見直しが既採択校と申請予定の法人に及ぼす影響を整理する。同じ基金の実績を、事業の実施機関は成果として、財政当局は課題として読んでいる。

1. 要点 〜154件の実績〜

資料の集計は文部科学省の公募選定結果に基づく。採択件数は令和5年度67件、6年度59件、7年度28件である。定員の増減は、令和5年度が増8,878人・減4,923人(純増3,955人)、6年度が増7,428人・減5,958人(同1,470人)、7年度が増3,488人・減2,703人(同785人)で、年度を追って純増幅は縮小している。

成果の面では、令和8年度までに開設された65件・101学部・学科のうち、27件・48学部・学科が令和8年度入学者で定員未充足であった。採択案件ベースで約4割、学部・学科ベースで約5割に当たる。採択後に取りやめとなった計画は12件(8%)ある。

財源は令和4年度第2次補正予算の3,002億円と令和7年度補正予算の200億円で、令和7年度末の基金残高は2,544億円、交付決定済額は2,100億円である。令和9年度概算要求では1,100億円が計上されている。

2. 政策文脈 〜成果評価の分岐〜

本事業は、支援1(学部再編等による特定成長分野への転換等、公私立大学対象)と支援2(高度情報専門人材の確保に向けた機能強化)で構成される。財務省資料は支援1・2の別を示していないが、年度別件数は令和5・6年度が支援1の選定件数と一致する。大学改革支援・学位授与機構の選定委員会による成果検証(令和7年11月25日)は、3回の公募で支援1を153件選定したとする。令和7年度のみ財務省は28件、文部科学省の第3回選定結果は支援1を27件としており、1件の差の理由は公表資料からは確認できない。

同じ成果検証は、選定された全ての大学の再編が完了する令和11年頃に理系学部の入学定員が約2.2万人増え、入学者に占める理系の割合が約35%から約38%に上がる見込みを成果として示した。一方で、支援1の採択率は67件中67件、62件中59件、35件中27件と下がり、選定後に学生や教員の確保が困難等の理由で事業廃止や交付決定の取消が生じていることも記した。

中央教育審議会の「知の総和」答申(令和7年2月21日)は、成長分野への学部転換支援の強化を、高等教育全体の「規模」の適正化の方策の一つに位置付けた。財務省資料の評価に照らせば、基金はその規模の適正化を伴っていないことになる。同資料22ページは私立大学について、リスクが顕現化する前の早期の段階で、円滑な撤退・再編等を含む大学規模の適切なダウンサイジングを図る必要があるとも記している。

3. 実務への影響 〜3つの論点〜

① 純増型計画の扱い

令和8年度公募の支援1「成長分野転換枠」(継続分)は、他学部の定員減を伴う計画が転換に係る要件を満たさない場合でも、入学定員増数が減数を20名以上上回れば、その上回る増数分を収容定員の増加を行う計画とみなしてフェーズ2の支援対象とする。フェーズ2の事業費上限額の目安は「0.15億円×入学定員増数」で、増数に比例する。助成率は2分の1に、増数に対する他組織の減数の比率の4分の1を加えて算定され、定員を減らすほど高くなる。上限額は増やすほど、助成率は減らすほど有利になる設計であり、純増は排除されていない。

これに対し、同年度に新設された「大規模文理横断転換枠」は、増加する入学定員数以上の文系学部等の入学定員の減少を申請要件とする。原則として純増を認めない枠が既に置かれた。財務省の指摘は、この考え方を継続分にも及ぼす議論につながる可能性がある。

② 開設後の充足と支援の連動

支援は、選定から認可申請等までのフェーズ1、開設までのフェーズ2、完成年度までのフェーズ3の3段階で行われる。現行のフォローアップは、毎年度の実績報告書、機構による進捗報告の求め、取組の実施状況と効果測定の結果の公表等である。申請要件には、認可申請又は届出までに大学の総収容定員充足率80%を満たす計画であることと、計画の具体化の進捗報告も含まれる。財務省が求める「状況に応じて支援する仕組み」が具体化すれば、開設後の入学実績がフェーズ3の支援の在り方に結び付く可能性がある。

③ 取りやめ時の返還

継続分の公募説明資料は、認可申請等の前に支出した後に学部等の開設を行わないこととなった場合、施設設備整備や建物取得に要した経費を全額返還の対象とする。取りやめ12件の存在は、採択が開設を保証しないことを示している。

4. 実務上の対応 〜3つの準備〜

準備①:増減の一体設計 新設する理系学部等の定員増と、既設学部の定員減を同じ計画として設計する。減らす側の学部の収支と教員配置も、同時に試算しておく。

準備②:開設後の充足見通し 申請時の学生確保の見通しを、開設後の入学実績で毎年度検証する。未充足の場合の募集・定員の見直し手順を、あらかじめ決めておく。認可申請又は届出までに満たす必要がある総収容定員充足率80%の要件も、既設学部を含めて点検する。

準備③:撤退条件の事前設定 学生・教員の確保状況が一定水準に届かない場合の判断時期と、返還額を含む撤退時の費用を、採択前に理事会で共有する。

結び

問いは3つである。成長分野の定員増と同じ規模の定員減を、どの学部で行うか。開設後の入学実績が支援の継続を左右する場合に、充足の見通しを数字で示せるか。計画を取りやめる場合の判断時期と費用を、採択前に決めているか。

支援1は令和14年度まで申請を受け付ける予定である。基金の運用の見直しがどこまで具体化するかは、財政制度等審議会が例年秋に取りまとめる予算編成に関する建議と、令和9年度予算で示される。


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参考資料

本レポートは2026年10月30日時点の公開情報に基づき作成しています。 株式会社UB研究所